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カバー株式会社の中長期戦略 ― VTuber産業の新たな成長軌道

  • 執筆者の写真: 推しマークMemo
    推しマークMemo
  • 7月2日
  • 読了時間: 3分
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決算実績が示す成長力

 カバー株式会社(東証グロース: 5253)は、VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を中心に事業を展開する。2025年3月期決算では売上高434億円(前年同期比+43.9%)、営業利益80億円(同+44.5%)を計上し、急成長を続けている。営業利益率は18.4%と競合ANYCOLOR(にじさんじ運営、営業利益率38%)に比べ見劣りするものの、売上成長率ではカバーが上回っており、積極的投資による将来成長への期待を市場に示した。


事業の柱:VTuberとIP拡張

 主力事業はVTuberマネジメントとIP活用である。ホロライブ所属タレントは国内外で約90名に拡大し、チャンネル登録者数は累計8,000万を超える。YouTube収益に依存せず、物販(公式グッズ、トレカ等)とイベント(大型コンサート、博覧会)を収益の中心に据える点が特徴だ。2025年3月に幕張メッセで開催された「hololive 6th fes. Color Rise Harmony」は59名の出演者によるステージ構成で、リアル・配信を合わせて数万人規模のファンを動員。これに加え、公式カードゲームの成功により物販売上は前年比4割超の伸びを記録した。


新規事業:ゲームとメタバース

 同社は既存IPの収益最大化に留まらず、新規領域への投資も活発だ。2023年には二次創作ゲーム支援プログラム「holo indie」を始動し、22本以上のファン制作ゲームが公式ブランドの下で展開されている。2024年には自社開発メタバース「ホロアース」のサービスを開始。アバターを通じた交流やデジタルアイテム販売など、独自経済圏の構築を目指す。さらに2025年には音楽リズムゲーム「ホロライブ DREAMS(仮)」を発表し、スマートフォンゲーム分野へ参入。将来の収益基盤を多角化する布石を打っている。


競合比較:ANYCOLORとの対照性

 業界のライバルANYCOLOR(2025年4月期売上高428億円、営業利益162億円)は、タレント数の多さと効率的なオペレーションによって高収益体質を維持している。一方カバーは、少数精鋭体制とブランド力に依拠し、1タレント当たりの売上では約2.7億円とANYCOLORの1.6億円を大きく上回る。短期的な利益率では劣後するが、「ファン1人当たりの熱量とLTV(生涯価値)の最大化」において独自の優位を築いている。


市場規模と比較対象

 国内VTuber市場は2022年度の約520億円から2023年度には約800億円へと拡大。これは同人誌市場国内トレーディングカードゲーム市場と同程度の規模である。矢野経済研究所は2025年度に1,260億円、2030年にはグローバルで1兆円規模へ成長すると予測しており、もはやVTuberは「ニッチ」ではなく一大コンテンツ産業となりつつある。


社会的認知と文化的影響

 ホロライブのさくらみこ氏が東京都の「東京観光大使」に任命された事例は、バーチャルタレントの社会的認知を示す象徴的な出来事だ。かつては一部ファン層のカルチャーに過ぎなかったVTuberが、公共・観光PRやメディア露出の場に登場することで、一般層・ビジネス層からも注目される存在へと変貌している。


結論:無視できない文化的・経済的現象

 カバー株式会社の戦略は、短期的な利益率に固執せず、IP拡張・ゲーム・メタバースへの投資を通じて中長期的な産業スケールを追求する姿勢に特徴がある。これは株主や投資家から見ればリスクを伴うが、同時に「VTuberを世界級の文化産業へ育てる」というビジョンの裏付けでもある。


 VTuberはすでに同人誌やTCGと並ぶ市場規模を持ち、社会的認知を獲得し始めた。食わず嫌いをしてきた層にとっても、もはや無視できない文化的・経済的現象であり、その最前線に立つカバー株式会社の挑戦は今後も注目に値する。


出典

  • カバー株式会社 決算短信・説明会資料(2025年3月期)

  • ANYCOLOR株式会社 決算資料(2025年4月期)

  • 矢野経済研究所「国内VTuber市場規模に関する調査」(2023年度版)

  • PANORA「hololive 6th fes. Color Rise Harmony」開催レポート (2025年

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