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VTuberグッズ戦略の違いを考える ― ホロライブとにじさんじ、企画の背景とファン文化

2025年10月01日

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 最近のホロライブとにじさんじを見ていると、同じ「VTuberグループ」でも、グッズの戦略やファンの消費スタイルに大きな違いがあることに気づきます。


 単に「好みの違い」と片づけるのは簡単ですが、実際にはファン層の性質、会社の経営構造、そして上場企業としての戦略的判断が深く絡んでいるように思えます。


 今回は、公開資料やファン文化の観測をベースに、「なぜホロとにじでグッズが違うのか?」を整理しつつ、個人的な推論も交えてまとめてみます。


にじさんじは“交換文化”に最適化された設計

 にじさんじは、女性ファン比率の高さが特徴です。ANYCOLORの公開資料では購買IDベースで女性比率が約7割とされています。この土壌では「ブラインド商品(ランダム缶バッジ、カードなど)」が非常に効果的です。


 女性ファン同士の間には、X(旧Twitter)などでグッズを交換する「お取引文化」が広く根づいています。会場やSNSで「推しを譲って別の推しを集める」こと自体が一つの楽しみになっており、これを前提にしたグッズ設計が合理的です。


 実際、にじさんじのグッズは低〜中価格帯で、数を集めて交換する楽しさを刺激する設計が多く見られます。ランダムカードや缶バッジ、にじさんじチップスなどはその典型で、女性ファン層の文化と完璧に噛み合っているといえます。



ホロライブは“記念性・作品性”を重視した設計

 一方のホロライブは、初期から「アイドルとファン」という関係性を意識してきました。そのため、ファンは「一点ものの記念」を大切にする傾向が強く、誕生日・周年記念グッズや受注生産のアクスタ、さらにフィギュアやライブBlu-rayといった中〜高価格帯の商品が主力になっています。


 とくに特徴的なのは、演者本人が関わるグッズには違和感が少なく刺さりやすいのに対して、公式主導の一部ラインナップは男性ファンから刺さらないと感じられる場合があることです。これは「女性ファン向けグッズ」のラインナップに寄りすぎているから、という見方もできます。


 ただしこれは、上場企業として「高額・射幸性の強い商品に依存するリスクを避ける」意識や、物流体制の効率化といった経営判断の副作用とも考えられます。


 COVERのIR資料には「射幸性を避ける」と明記されているわけではありませんが、“透明性のある受注生産”を拡大しつつ、供給の安定性を優先しているのは事実です。



上場がもたらした「企画とファンのズレ」

 ホロライブのファンの中には「最近のグッズが刺さらない」という声も見られます。背景には、上場企業としての責任と、ファンが求める熱狂とのズレがあるのかもしれません。


・ファン:推しの記念を祝いたい、特別感がほしい

・演者:自分のカラーや想いをグッズに反映したい

・会社:法令遵守・リスク回避・安定供給を優先したい


 この三者の思惑が必ずしも同じ方向を向いているとは限らず、「安全に広く売れる雑貨路線」がファンの体感とズレる瞬間があるのです。


ANYCOLORはなぜ変える必要が少なかったか

 一方のANYCOLOR(にじさんじ)は、上場前から「女性購買が厚く、交換文化に適した低〜中価格グッズを大量に回す」というモデルが既に確立していました。

 そのため、上場しても大きく戦略を変える必要がなく、ファン体験と企業戦略の整合性が保たれやすかったのです。


 ネットでは「株価にもその安定感が現れているのでは?」という言説もあります。ただし株価は多因子で動くため、単純に“グッズ戦略の差が株価に反映した”と断定するのは危険です。

 とはいえ、両社の戦略の差が投資家に与える印象は少なからず影響しているのではないか、という推論は理解できます。


文化的な違い:見せるものの違い

 最後にファン文化の違いをもう一つ。


  • にじさんじに多い女性ファンは、SNSでの「交換・取引」を通じてグッズを揃え、推しを“見せる”ことが多い。

  • ホロライブファンに多い男性ファンは、「自分が作った/やり切った成果物」を共有し、それを他のファンや演者、ひいては公式が拾ってバズることが多い。


 つまり、にじさんじのグッズは「見せて楽しむコミュニケーションの道具」であり、ホロライブのグッズは「記念や成果を残す象徴」になりやすい。これも両者の戦略の違いを支える文化的背景といえます。


ホロライブが自社でトレカを始めた理由と成功要因


 ホロライブが2024年から自社で展開を始めた公式TCG(トレーディングカードゲーム)は、売上の柱として急速に育ちました。


 その理由は、にじさんじ的な「交換文化」ではなく、ホロライブ的な“記念性・作品性”と相性が良いカード設計にあります。たとえばライブビジュアルや周年イラストをカード化することで、「一枚一枚が推しの記念グッズ」になるのです。

 これなら男性ファンの「飾って楽しむ」「記念に残す」という消費スタイルと噛み合いますし、海外ファンにとっても「カードは買いやすい・郵送しやすい」という利点がありました。


 つまり、“カード”という形式を借りながら、にじさんじの交換文化とはまったく違う意味でヒットさせたというのが大きなポイントです。


まとめ


  • にじさんじは「女性購買層+交換文化」に強く最適化し、低〜中価格帯で施策を大量に回すモデル。

  • ホロライブは「男性購買層+記念文化」に寄せ、受注生産やプレミアムグッズを主力に据えるモデル。

  • ホロライブのトレカ成功は、この“記念性”と“カードの形式”を巧みに掛け合わせた結果。

  • 上場後のホロライブは、リスク回避や法令対応のため“安全側の設計”に寄りやすく、ファン体感とのズレが議論されるようになった。

  • ANYCOLORは上場前からモデルが完成していたため、大きな戦略変更が不要で、その安定感が株価への安心感につながっている、という見方もある(ただし単一要因で説明するのは危険)。


 結局のところ、どちらも「ファン文化」と「会社の戦略」が噛み合った結果として最適解を選んでいるにすぎません。


 ただし、その最適解がこれからも続くとは限らず、海外展開や女性比率の変動に応じて、新しいグッズ戦略が模索されていくはずです。

ANYCOLOR「2026年4月期 第1四半期 決算短信・説明資料」
(女性購買比率・事業エリア別KPI)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5032/ir_material_for_fiscal_ym/1730/00.pdf
COVER「事業計画および成長可能性に関する事項」(2025年5月13日公開)
(収益構成:マーチャンダイジング47%)
https://cover-corp.com/ir/library/
ログミーFinance「カバー株式会社 2024年3月期 決算説明」
(“コマース展開により収益構造のシフトが加速”発言)
https://finance.logmi.jp/377959
COVER「新物流センター運用開始に関するお知らせ」(2025年6月25日)
https://cover-corp.com/news/detail/20250625
ホロライブ公式ショップ
(誕生日/周年グッズ、受注販売の事例)
https://shop.hololivepro.com/
hololive OFFICIAL CARD GAME 公式サイト
(公式TCG商品の展開)
https://hololive-official-cardgame.com/
にじさんじオフィシャルストア
(ランダム缶バッジ・アクリルスタンドなど低〜中価格帯商品)
https://shop.nijisanji.jp/
「にじさんじチップス Vol.7」発売告知(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000201.000085936.html

山口晶子「SNSを利用したオタク女子のグッズ交換:Twitterにおける『お取引』」
武蔵野大学『The Basis』Vol.10(2020)
https://hdl.handle.net/10780/00008775
電ファミニコゲーマー「オタク女子のグッズ交換文化とトラブル」
https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/181116
消費者庁「景品表示法の概要」
(不当景品類及び不当表示防止法:高額・射幸性リスクとの関係)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/

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