“推しがステージに立つ日”が増えている!ホロライブ単独ライブの背景を考える【2020~2025年の軌跡】
2025年10月3日
2020〜2025年:ホロライブ単独リアルライブ開催数の推移
VTuberグループ「ホロライブ」に所属するタレントによる有観客の単独ライブは、2020年には事実上ゼロでした。新型コロナの影響もあり、この年に予定されていた湊あくあ初のソロライブはオンライン開催に切り替わるなど、リアル会場で観客を入れたライブは実現しなかったためです。
一方、2021年になると状況は改善し、星街すいせい(10月、豊洲PIT)や角巻わため(10月、Zepp Tokyo)といった人気タレントが初の有観客ソロライブを開催しました。2022年にはさらに増え、ときのそら(1月、映画館中継によるカバーライブ)、湊あくあ(1月、豊洲PIT)に加え、猫又おかゆ(9月、立川ステージガーデン)など複数のタレントがリアル会場で単独ライブを成功させています。
2023年も常闇トワ(10月、立川ステージガーデン)や星街すいせい(1月、東京ガーデンシアター)のソロ公演が行われ、コロナ禍で制限されていた声出し応援もこの年ついに解禁されました。そして2024年~2025年にはその流れが一気に加速します。
2024年後半から2025年前半にかけて、さくらみこ(2024年10月、有明アリーナ)、星街すいせい(同年11〜12月、国内ライブツアー)、宝鐘マリン(2024年12月、Kアリーナ横浜)、白上フブキ(2025年2月、ぴあアリーナMM)など多数の中・大型ソロコンサートが次々と開催予定と公表されました。実際、2024年度下期は前年同期と比べライブコンサート件数が大幅に増える計画であり(上期は件数減で売上減でしたが下期 に巻き返す見通し)、通年では順調な増収を見込んでいると企業側も述べています。
以上のように、2020年の停滞を底に、2021〜2023年は緩やかな増加、2024年以降に大幅な拡大という傾向が明確です。
IR資料・プレスリリースに見るCOVER社のライブ戦略と設備投資
タレントのライブ活動が活発化する裏では、運営会社であるカバー株式会社(COVER)による戦略的な設備投資と事業体制の強化が進められてきました。まず象徴的なのが、2023年に完成した大規模スタジオ施設です。COVERは約1年半と総工費27億円を投じて最新鋭のモーションキャプチャー設備と録音設備を備えた国内最大級の新スタジオを東京都内に設立しました。テニスコート10面以上の広さを持ち、最新式のVICONモーションカメラ200台超を導入するなど、より緻密で高品質なコンテンツ制作を可能にする環境です。
このスタジオ拡張によってライブ演出の表現力向上や制作効率アップが図られたことは、ホロライブタレント の3Dライブ演出クオリティ向上にも直結しています(IR資料でも「スタジオ投資」「リアルイベント制作費」の増加が報告されています)。
さらに、ライブ関連事業を下支えする物流体制の強化も行われました。COVER社は2025年6月、従来分散していた複数の倉庫拠点を集約する新たな物流センターを本格稼働させています。VTuber人気拡大に伴うグッズ取扱量の増加や多様化に対応するための施策で、在庫管理・出荷オペレーションの効率化や品質管理の強化を実現したとしています。グッズ販売(マーチャンダイジング)はホロライブの収益柱の一つであり、ライブ開催に合わせた公式グッズ展開も重要です。物流基盤の整備によって、ファンへの迅速な商品提供とコスト削減を両立し、ライブ興行を含む事業成長を支える狙いがあります。
このように、COVER社はハード面(スタジオ・設備)と物流面の両輪でライブ戦略を支えています。IR説明会でも、スタジオ機能のアップデートやリアルイベント制作費の増加など先行投資を行いつつも高い利益率を維持していると述べられており、「ライブ事業の強化」 が中長期成長戦略の重要テーマであることがうかがえます。また経営陣はプレスリリース等で「より高品質のコンテンツや次世代エンターテイメント提供のための投資」に言及しており、ライブ公演を含むリアルイベントの拡充に積極的な姿勢を示しています。
ソロライブ増加の背景:演者・ファンのモチベーション相互連鎖
ホロライブの単独ライブが増えている背景には、タレント(演者)とファン双方の高まるモチベーションが互いに連鎖的に影響しあっていることが挙げられます。
まず演者側にとって、有観客ライブは「いつか叶えたい夢」であり、それを支えるファンの熱意が原動力になっています。例えば、湊あくあはデビュー当初から「ファンの前で歌って踊るソロライブ」を夢見てきたとされ、2022年にその夢が豊洲PITで実現した際には「観客をライブ会場に迎える有観客ワンマンライブがずっと夢だった。それがいよいよ叶った瞬間だった」と語られています。ファンに直接声援を届けてもらえるライブは演者にとって格別であり、夢の舞台が実現した達成感が次の活動への大きなモチベーションとな っています。
一方でファン側も、ライブでの演者の全力パフォーマンスに心を打たれ、さらなる応援意欲を高めています。2022年9月に開催された猫又おかゆの1stライブでは、公演後のMCで本人が「こんな僕をこんなにたくさんの人が好きって言ってくれるなら、頑張る意味はあるんじゃないかなって今は素直に思っています。僕をアイドルにしてくれたのは、まぎれもなくそこにいる君だったなと」と感謝と決意を述べ、客席から大きな拍手が起きました。この発言からもうかがえるように、ファンの声援が演者の背中を押し、その成長と活躍がさらにファンの熱狂を呼ぶという好循環が生まれています。実際、おかゆのライブはエンドロール後も鳴り止まない拍手に包まれ、大成功を収めました。
またライブ当日の会場だけでなく、SNS上でもファンは感想やイラスト、祝いのメッセージを送り合い盛り上がります。そうした反応を演者が後で確認し「もっと良いライブを届けたい」という意欲につなげるケースも多いように思えます。
演者とファンが互いに刺激し、高め合う関係性こそがソロライブ増加の根底にあり、一度ライブを経験したタレントが「次はもっと大きな会場で」「もっと内容を充実させて」と意欲を燃やし、ファンもそれに応える形で支援を拡大する—この相互作用がホロライブ全体のライブ活動活発化を後押ししているのではないかと考えられます。
VTuberのライブでは演者はどこにいるのか?
VTuberのリアルライブでは基本的にステージ上に映るのはバーチャルなアバターですが、中の演者本人が本当に会場に来てパフォーマンスしているのか気になるファンも多いようです。ホロライブの場合、結論から言えば主要な有観客ライブでは演者本人が現地でモーションキャプチャースーツを着て出演しているとみられ、その証拠となるエピソードもいくつか報告されています。
特に有名なのが大神ミオの1stソロライブ(2025年9月開催)で起きたエピソードです。ライブ終盤、アンコール前にミオが代表曲「SSR(ホロライブ公式アイドル曲)」を歌唱し終えた直後、スクリーンに映る彼女のアバターが観客に向けて「ありがとう!!」と叫びました。この「ありがとう」の声会場に響き渡り、明らかにマイクを通したスピーカー音声ではない生の肉声で、客席にいたファンはその瞬間「ミオしゃ(大神ミオ)がここ(会場)に居る!? 幻なんかじゃない!」と実感し、感極まったといっています。
スクリーン越しのバーチャルライブでは、本来“中の人”が見えないために観客はある種の「不信の停止」(フィクションと割り切って楽しむ心境)をしているわけですが、ミオの肉声シャウトはまさに第四の壁を打ち破る出来事でしたと伝えているファンもいました。このような生声での呼びかけは事前収録では不可能であり、本人が舞台袖かステージ裏に実在していたことの確かな証明と言えるでし ょう。
同様に、ライブ後のスタッフ発信や出演者のコメントから現地出演が確認されたケースもあります。2022年1月開催のときのそら「Role:Play」ライブは東京と大阪の映画館スクリーンに同時中継する形式でしたが、関係者によれば本人はスタジオから各会場へリアルタイム出演していたとのこと(映画館スタッフのコメントや後日のインタビュー情報より)。
また、ホロライブ運営スタッフも「タレントのテレビ番組出演やイベント出演オファーでは通常現地にモーションキャプチャー機材を構築して対応する」と技術講演で説明しており、基本的に演者本人が現地入りしてパフォーマンスしている前提で運営していることが示唆されています。このように、ファンの間でも「生声が聞こえた」といった目撃談が度々話題になりますが、総じてホロライブのリアルライブは生身の演者の熱気がちゃんとその場に存在している安心感が支持されていると言えるでしょう。
リモート出演の実例と公表状況:演者不在のライブはあったのか?
では逆に、演者が現地に来られずリモートで出演したケースはホロライブに存在するのでしょうか? 調査した範囲では、公に「○○のライブはリモート出演だった」と明言された公式事例はほとんどありません。ただ、いくつか参考になる情報があります。
まず2022年1月のときのそら「Role:Play」ライブは先述の通り東阪2会場の映画館とオンラインで同時開催という特殊な形式でした(realsound.jp)。この公演では、ときのそら本人はいずれかのスタ ジオまたは、専用スタジオからリアルタイムでパフォーマンスを送り出し、東京・大阪の映画館スクリーンにその映像が映し出されたと考えられます。観客は映画館という半バーチャル空間に集まりましたが、会場自体には演者は不在だったわけです。このように「観客あり・演者遠隔」のライブは技術的に可能であり、一種のリモート出演ケースと言えます(当時はコロナ禍の事情もあり試験的な開催形式でした)。
また、COVER社は遠隔地からのリアルタイム出演技術の開発に積極的に取り組んでいます。2025年のCEDEC(ゲーム開発者会議)では、ホロライブの配信技術スタッフがダークファイバー回線を活用した超低遅延伝送技術により「会場の生バンド演奏に、離れたスタジオからタレントが合わせて生歌唱する」ことを可能にしたと発表しました。この技術によって、物理距離を超えて映像・音声をリアルタイム同期でき、安定性も確保できるとのことです。開発背景には「会場側の都合でモーキャプ機材を設置できず出演を断念するケースがあった」ことがあり、そうした機会損失を減らすべく伝送技術をアップデートしたと説明されています。言い換えれば、今後は演者が現地に行かなくともライブ参加できる環境が整いつつ あるということです。
実際にこの技術が商用ライブで使われた公表例はまだありませんが、ホロライブ以外のVTuberイベントでは「別会場(または自宅)からモーションデータを配信してライブ出演」という事例が僅かながら見受けられます(にじさんじ等での"技術実験的ライブ"など)。ホロライブも将来的にタレントの遠隔出演を公式に取り入れる可能性は十分あるでしょう。ただしファン心理としては「やはり本人に会場に来てほしい」という声も強いため、リモート出演を行う際は事前アナウンスするなど配慮が必要と推測されます。。
まとめると、現時点でホロライブ単独ライブの大半は演者現地参加で行われていますが、技術的にはリモート出演も可能になりつつあり、今後公表される事例が出てくる可能性があります。観客としても、遠隔出演と気付かないほど遅延のない技術が完成すれば「どこから出演していようとステージにいるのと同じ」と受け入れられるかもしれません。
VTuberリアルライブの未来:技術動向と観客動員戦略の予測
最後に、今後のVTuberリアルライブの展開を予測します(あくまで仮説・推測です)。
まず技術動向については、先述の超低遅延伝送技術の実用化により、地理的制約を超えたライブ出演が普及すると考えられます。例えば、日本のスタジオにいるタレントが海外のコンサート会場にリアルタイムで出演し、現地の生バンドとセッションするといったことも技術的に可能になるでしょうし、実際にそうなりつつあります。
これにより、タレントの移動コストやリスクを抑えつつ各国のイベントに参加できるため、グローバルなライブ展開が加速すると期待されます。また、AR(拡張現実)やホログラム投影などの技術も進歩すれば、観客の目の前に立体映像でVTuberを映し出す演出も現実味を帯びてきます。観客側がARグラスを装着してライブを見るような未来も、決してSFではありません。
ホロライブは2025年の大規模なワールドツアー「hololive STAGE World Tour ’25 -Synchronize!-」では日本・海外のタレント混成チームが参加しています。桃鈴ねね(日本)や森カリオペ(EN)など5人がシドニー・香港・バンクーバー・ニューヨーク・ソウル・クアラルンプール・台北と世界各地のイベントに登壇しました。これは世界中のファンを直接ライブに動員する戦略の一環であり、各地のアニメイベント等と提携しながらVTuberライブをグローバル展開する試みと言えます。将来的にはワールドツアーを定期開催したり、欧米・アジア各地での単独コンサート(アリーナ級公演)も視野に入れているでしょう。実績として、星街すいせいが2025年2月にVTuberとして初めて日本武道館ソロライブを成功させたことは象徴的で、彼女自身は次なる目標を東京ドーム公演に置いているとも報じられています。東京ドームや海外の大型会場でVTuberライブが行われる日は、そう遠くないかもしれません。
さらに、メタバースとリアルの融合も進むでしょう。ホロライブは自社メタバースプロジェクト「ホロアース」を展開中で、2025年8月の天音かなた1stライブで はホロアース内で応援イベントを開催しました。期間中、仮想空間の街並みにライブ広告看板を掲出したり、アバター用のライブTシャツやペンライトを販売するなど、ファンがバーチャル空間でもライブ気分を味わえる企画が実施されています。将来はホロアース上でライブビューイングを行い、VRゴーグル越しに他のファンと一緒に盛り上がることも考えられます。こうした「リアル×バーチャル同時展開」はVTuberライブならではの強みであり、現地に行けないファンもバーチャル会場で参加しグッズ消費してもらうという、新たな収益モデルの創出にもつながるでしょう。
観客動員戦略としては、引き続きファン参加型の演出を重視すると予想されます。コールアンドレスポンスや合唱企画、サイリウムによる一体感演出など、アイドルライブ文化のエッセンスをVTuberライブにも積極的に取り入れていくでしょう。実際、2023年以降ホロライブは観客の声出し解禁を受けて従来以上にコールを煽る演出を行っています。最近ではペンライト制御による客席イルミネーション演出が始まっており、今後はスマホ連動の投票企画など、新しい観客参加演出が登場するかもしれません(例:ライブ中にファン投票で次の曲目を決める等)。ファンとの一体感を醸成する工夫こそがVTuberライブ成功の鍵であり、デジタル技術と組み合わせて ますます洗練されていくと考えられます。
以上、ホロライブのリアル単独ライブ増加の要因と企業戦略、双方のモチベーション、現地出演の裏付け、そしてリモート技術や未来展望について考えてみました。VTuberによるライブエンターテインメントは、テクノロジーと創意工夫によって日々進化しています。事実に裏打ちされた着実な進歩とファンとの熱い連鎖反応を原動力に、ホロライブのリアルライブはこれからも新たなステージへと「進化」を続けていくでしょう。
ホロライブ公式プレスリリース「カバー株式会社、新スタジオ設立を発表」(2023年5月11日) – https://cover-corp.com/news/detail/230511-01
KAI-YOUニュース「ホロライブ運営のカバー社、27億円かけ国内最大級の新スタジオ設立」(2023年5月11日) – https://kai-you.net/article/86724
カバー株式会社公式リリース「複数拠点を集約する新物流センターの運用を開始」(2025年6月25日) – https://cover-corp.com/news/detail/20250625-01
uyet media 解説記事「カバー社2025年3月期 決算から見るVTuber市場成長戦略(前編)」(2025年6月20日) – https://uyet.jp/media/vtuber-business/holo-financialstatements1/
ログミーFinance 決算説明会書き起こし「カバー株式会社 2025年3月期第2四半期 決算説明会」(2024年11月27日公開) – https://finance.logmi.jp/articles/380696
PR TIMESニュースリリース「湊あくあ アニバーサリーライブ2020 オンライン開催決定」(2020年7月7日) – https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000274.000030268.html
ホロライブ公式サイト イベント情報「湊あくあ ワンマンライブ2022 『あくあ色 in わんだ~☆らんど♪』」(2022年1月28日開催) – https://hololive.hololivepro.com/events/aqua2ndlive/
ホロライブ公式サイト イベント情報「猫又おかゆ 1st Live『ぽいずにゃ〜しんどろーむ』」(2022年9月30日開催) – https://hololive.hololivepro.com/events/okayu1stlive/
Real Sound記事「ときのそら、3年ぶり有観客ライブ『Role:Play』レポート」(2022年2月10日) – https://realsound.jp/2022/02/post-965497.html
noteブログ「大神ミオ1stソロライブ "Our Sparkle" 現地参戦感想」(2025年9月11日, くぷらーと氏) – https://note.com/cuplatte/n/n6d6c113cab8a
インサイド記事「ホロライブスタッフが語る遠隔生バンドセッション技術【CEDEC2025レポート】」(2025年8月17日) – https://www.inside-games.jp/article/2025/08/16/170582.html
PANORAレポート「ホロライブ・星街すいせい2ndソロライブ徹底レポート(声出し解禁)」(2023年2月20日) – https://panora.tokyo/archives/61890
ホロライブ公式サイト イベント情報「hololive STAGE World Tour ’25 -Synchronize!-」(2025年開催予定) – https://hololive.hololivepro.com/events/hololivestage25/
ホロアース公式お知らせ「天音かなた 1stソロライブ応援企画 in ホロアース」(2025年8月4日) – https://holoearth.com/news/kanatalive/


